デザインが苦手という方の中には「自分にはセンスがないから…」と思っておられる方がいます。暗黙のうちにセンスとは“先天的な才能”と思い込んでしまっているのです。しかし、事実は違います。熊本県のPRキャラクター“くまモン”を生み出した有名デザイナーの水野学氏も自著「センスは知識からはじまる」という本の中で「センスとは知識の集積である」と断言されています。

つまり、センスとは知識の積み重ねによって築き上げられた“気づき”の集大成です。その“気づき”がその人の中である程度体系化されて、スキルとして身についたものがセンスなのです。

デザインセンスを向上させるためのものの見方や考え方を身につけさえすれば、センスは誰でも向上させることができるものなのです。では、具体的どうすればいいのでしょうか?

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目次

  1. デザインの第一歩は真似ること
    1. 一概に真似は良くないと思い込むことは禁物
    2. 真似るべきものとは?
  2. 規則性を生み出しそれを守る
    1. 色の規則性
    2. 文字の規則性
    3. レイアウトの規則性
  3. 批評し調整する
  4. まとめ

1. デザインの第一歩は真似ること

真似ることやいわゆる“パクる”ことは良くないことだと多くの人が考えます。知的財産権や著作権を念頭に置けばそのことは当然のことです。少し前になりますが、佐野研二郎氏がデザインした東京オリンピックの新エンブレムで盗用疑惑が発覚し大問題となりました。確かに有名なデザイナーが既出の作品や著作物を盗用したとなれば、それは大問題です。しかし、デザインを学ぶ上で、真似ることは実は不可欠な過程だと言えます。どうしてそう言えるのでしょうか?

1-1. 一概に真似は良くないと思い込むことは禁物

そもそも日本語の“真似(まね)”の語源と“学ぶ(まなぶ)”の語源は一緒だという説があるようです。「真に似せる」の意味から「まね」や「まねぶ」が生じて、その後「まなぶ」となったという説です。その真偽は言語学者の方の見解に耳を傾けるとして、要するに何が言いたいかというと、学ぶことには真似ることが深く関わっているということです。

これはデザインの世界でなくても同じですよね。子供は親を真似て言葉を学習します。草野球チームの少年は、有名なプロ野球選手のバッティング・フォームを真似て上達を目指します。ですから、一概に真似は良くないと思い込むことは禁物です。デザインも真似ながら学んでいく必要があります。

1-2. 真似るべきものとは?

学びに必要な真似は、一言でいうと「特定の要素に絞って、その理由を分析した上で、同じようにやってみること」です。真似をするからには、こんなところを真似たいという前提があるはずです。一つ例えで考えてみましょう。素敵なWebサイトがあったとします。こんなサイトをデザインしてみたいなぁと思ったとします。では、なぜそのサイトが「素敵だな」と思わせるのでしょうか。

決して「…雰囲気がいいから」と一言で片付けないでください。これは禁物です。その時点で思考をストップさせてしまったら、センスを磨くことは到底できません。むしろ、具体的に「素敵だな」と思わせる要素に注目します。はどうでしょうか?レイアウトが見やすいのでしょうか?写真のクオリティーが高いのでしょうか?フォントがカッコいいのでしょうか?その要素一つ一つに注目して分析します。

例えば、色が気に入ったとしましょう。明るいブルーだったとします。他にもアクセントとして、別の色が使われているでしょうか。それが赤みの強いピンクだったとします。その比率はどの程度でしょうか?7対3でしょうか。それとも9対1でしょうか?とまぁ、こんな感じで、「素敵だな」と思う理由を分析するのです。また、そもそもなぜその色が使われているんだろう?サイトの目的や内容に合っているだろうか?などとも考えてみます。

実は、このような思考過程が非常に重要で、その過程で得られた“気づき”を頭の中にあるデータベースに蓄積していくのです。次回、何かデザインするようなことがあったら、その思考過程を頭のデータベースからもう一度引っ張り出して適用します。デザインセンスの向上はこれの繰り返しと言っていいと思います。このような思考過程の積み重ねがあって、ある程度体系化された時に、その人とセンスということになるのです。

2. 規則性を生み出しそれを守る

良いデザインにはそのデザインに備わっている“トンマナ”というものがあります。これは「トーン&マナー」の略で、そのデザインの色やレイアウトの統一性、また世界観や雰囲気のことを指します。デザイン作業に入る前に、デザイナーはどんなトンマナにするかを考えます。色は何を使うべきか、レイアウトはどうするか、などです。これを最初にきちんと定めておかないと、あとで統一感のないチグハグなものとなってしまいます。

2-1. 色の規則性

Webサイトのデザインでも、企画書のデザインでも同じことが言えるのですが、様々な色を使います。例えば、コーポレートカラーがブルーなら、デザインにもブルーを使うかもしれません。しかし、使う所々で、そのブルーの色が微妙に違っていたら、どうでしょう?ある箇所のブルーは少し赤みがかっているかと思えば、こちらは少し彩度が高い…のようにチグハグだと、とても気持ち悪く感じるものです。ですので、ブルーを厳密に定義して、この色を使うとしっかり決めてしまいます。決めたらその決まりを厳守します。

2-2. 文字の規則性

どんなデザインにも大抵、文字が使われています。どんなフォントを使ったらいいでしょうか?この記事だけでそのことを語ることはできませんが、一つ言えることは、文字にも統一性を持たせる必要があります。一つのフォントを使ったら、基本的には同じフォントを用います。数種類のフォントを使うことはよくあることですが、多くても3種類程度までで、一つのデザインにフォントがそれ以上使われるケースは特殊なケースだと考えてください。

フォントを選ぶ際にもフォントの向き不向きを考慮に入れます。パソコンの画面で見やすいフォントというものがあります。看板の標識において識字率が高いとされるフォントがあります。印刷に向いているフォントもあります。こうしたことを一つひとつ考慮して、どんなフォントを使うかを検討します。

2-3. レイアウトの規則性

デザインしない人でも左揃え、右揃え、中央揃えの意味はわかると思います。例えば、全体的に左揃えでデザインを組むような場合は、目に見えないラインを頭の中で引き、文字も写真もその目に見えないラインに揃えておきます。その目に見えないラインをガイドラインと呼びます。デザインツールには大抵、画面上にガイドラインを配置できる機能があります。画面では見えていても、そのラインはあくまでガイドなのであって、出力はされないものです。

また、大抵のレイアウトには“カラム”と呼ばれる囲みがあります。その囲みの上下左右にガイドラインが引かれているところを想像してみてください。その目に見えない複数のガイドラインをひとまとめにグリッドラインと呼びます。このようにレイアウトは基本的に言ってこのグリッドラインに支配されており、このラインを無視することはできないものと考えます。

最近はブロークングリッドというデザイン手法もあるのですが、このブロークングリッドでさえ、目に見えないグリッドラインに支配されており、一定の規則性でオブジェクトが配置されているのです。ブロークンとは言っても、完全にレイアウトを壊しているわけではなく、むしろ一定の法則に則ってレイアウトをさらに複雑化してあるのです。

このようにデザイン作業というものは、色にしても、文字にしても、レイアウトにしても、その規則性を定めてそれを守るということに集約されます。まずこのような一定の規則を設けること。これがデザイン作業の第一歩です。

3. 批評し調整する

何かのデザインを一通り完成させたとしましょう。それは管理画面のレイアウトかもしれませんし、店舗用のチラシかもしれません。何でもいいのですが、作業が終わったら、自分なりにそれを批評してみましょう。細部にズレや規則に則っていないところがあるでしょうか?お手本にしたものがあるのだとしれば、それとの違いはありますか?全体的なバランスはどうでしょうか?タイトルはもう少し大きい方がいいでしょうか、それとも小さい方がいいでしょうか?

このように、自分で客観的に批評することはとても大切です。その時に気づいたことがあれば、修正して改善します。このようなデザイン細部の調整をブラッシュ・アップと呼んだりします。デザイン作業ではこのブラッシュ・アップという工程も非常に重要です。

翌日、自分がデザインしたものを再び見てみましょう。すると不思議なもので、大抵の場合「あぁ、ここはこうすれば良かったな」という箇所が二、三必ず出てくるものです。昨日は完璧と思ったのに、翌日見ると改善すべきところが見えてくる。時間を置いて客観的な視点で物事を振り返ることの大切さがこうした事例からもよくわかります。こうした細かな調整がデザインの完成度を上げていくのです。

4. まとめ

今回は「デザインが苦手という方のための処方箋」と題して、誰でもできるデザインセンスの向上を目指したヒントをまとめてみました。ここまで読んでこられた方の中には、もしかしたら「え〜、結構面倒臭いなぁ」と思われた方もいるかもしれません。

しかし、デザインに関する意識をほんの少し変えるだけで、この記事で説明したような事柄は、そのうちに、ほとんど無意識のうちにできるようになるものです。ちょっと意識してみるだけ、気づかなかったことに気付こうとするだけのことなのです。

普段からこうしたことを意識できれば、あらゆるものの見方が変わるようになります。自分のデザインセンスを向上させるために分析するものの見方をすれば、センスはみるみるうちに向上するものなのです。